主文
1本件抗告を棄却する。2抗告申立費用は抗告人の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1原決定を取り消す。2桐生簡易裁判所平成13年(ト)第2号債権仮差押命令申立事件について,同裁判所が平成13年5月18日にした仮差押決定を認可する。
3申立費用は,原審,抗告審を通じ相手方の負担とする。
第2事案の概要
1抗告人は貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)による登録を受けた貸金業者であるところ,平成9年2月18日,有限会社北澤建設(以下「北澤建設」という。)との間で手形割引・金銭消費貸借契約等継続取引契約を締結し(以下「本件継続取引契約」という。),同契約に基づいて北澤建設に対し,別紙貸付返済一覧表「貸出日」欄記載の日に同表「貸口CD」欄の各金銭消費貸借契約を締結し,それぞれ同表「貸出金額」欄記載の金銭を貸し付けた(個々の貸付けについては,以下,同表「貸出日」欄記載の日を冠して「平成9年2月18日の貸付け」などといい,各貸付けを一括して表現するときは,以下「本件各貸付け」という。)。2相手方は,平成9年12月12日,抗告人に対し北澤建設の抗告人に対する貸金債務(手形割引,金銭消費貸借契約に基づく債務)につき期間5年間,金400万円を限度とする連帯根保証をした(以下「本件根保証契約」という。)。
3北澤建設は,抗告人に対し,別紙貸付返済一覧表「返済日」欄記載の日に同表「返済金額」欄記載の金額を支払った。
4相手方は,平成13年1月25日,抗告人に対し金89万7604円を支払った。
5桐生簡易裁判所は,平成13年5月18日,相手方の申立て(同裁判所平成13年(ト)第2号債権仮差押命令申立事件。
以下「本件仮差押申立て」という。)に基づき,請求債権を本件根保証契約に基づく抗告人の相手方に対する連帯保証債務履行請求権の内金50万円,仮差押債権を抗告人の第三債務者に対する給与及び賞与等債権(差押禁止部分を除く。)とする仮差押決定(以下「本件仮差押決定」という。)をしたが,抗告人の異議申立てを受けて同年8月20日に本件仮差押決定を取り消し本件仮差押申立てを却下するとの決定をした。
6本件における争点は後記第3,これに対する各当事者の主張は後記第4に記載のとおりであり,その結果北澤建設の残債務について,抗告人は別紙抗告人計算のとおりであり,相手方は別紙相手方計算のとおり(上記4の支払により残債務は消滅したと主張する。)であるとそれぞれ主張する。
第3争点
1みなし弁済の成否(1)利息天引とみなし弁済の成否(みなし弁済が否定される場合は,制限利息超過部分の元金への充当方法)
(2)貸金業法17条書面交付の有無
(3)貸金業法18条書面交付の有無
2抗告人北澤建設間の本件各貸付けは,貸口別に別途の契約であるか,全体として一個の契約であるか。
3取引継続中に遅滞を生じた場合,遅延損害金が発生するか否か。
4保全の必要性
第4争点に対する当事者の主張の骨子
1争点1(1)(利息天引とみなし弁済の成否)について(抗告人の主張)
利息天引は貸付にあたっての条件にすぎないから,利息天引だからといって支払の任意性が否定されることにならないし,法の解釈上も貸金業法43条の適用があると解すべきである。
(相手方の主張)
争う。
利息天引の場合には,貸金業法43条の適用がないというのが立法担当者の見解であり,定説であり,確定した判例でもある。
また,本件においては,最初の貸付後の各月の利息の支払はすべて利息の先払の約定となっているところ,利息の先払をしなければ期限の猶予や再度の貸付けを受けられない状況において債務者が利息を先払いするのは,天引利息の支払と同様任意の支払とはいえない。
したがって,本件ではすべての返済について貸金業法43条の適用がないことになる。
したがって,利息天引が行われた平成9年2月18日の貸付返済については,別紙相手方計算に記載のとおりその全額を元金に充当すべきである。
(抗告人の反論)
天引利息を全額元本に充当することは,利息制限法2条の規定に照らし許されない。
2争点1(2)(貸金業法17条書面交付の有無)について
(抗告人の主張)
抗告人は本件継続取引契約の締結に当たり,北澤建設に対し弁済期,弁済方法及び弁済の充当順序を明記した契約書面を交付した。
相手方は本件根保証契約により本件継続取引契約に基づく北澤建設の債務のうち平成9年12月12日の契約について根保証したものである。
また,抗告人は,平成9年2月18日以降も北澤建設に対し金銭消費貸借契約締結に際して各々借用証書を作成し,その写しを交付しているが,この書面は,貸金業法17条に基づく書面である。
(相手方の主張)
争う。
貸金業法43条の規定は,利息制限法による制限利率の例外を認めるものであるから,その適用は厳格になされなければならず,同条適用の要件たる貸金業法17条の解釈も厳格になされなければならない。
かかる制度趣旨にかんがみるとき,貸金業法17条に基づく書面は,1通の書面において法定の記載事項がすべて記載されていなければならないと解されるところ,本件で抗告人が相手方(ないし北澤建設)に対し交付したとする書面には,1通の書面において法定の記載事項が記載されていない上に,仮にすべての書面を総合して検討することが許されるとしても,貸金業法17条1項8号,貸金業の規制等に関する法律施行規則(以下「貸金業法規則」という。)13条1項1号ハ(貸付けに関し貸金業者が受け取る書面の内容),ニ(債務者が負担すべき元本及び利息以外の金銭に関する事項),ヌ(当該契約に基づく債権につき物的担保を供させるときは,当該担保の内容)の記載が欠けており,いずれにしても貸金業法17条に基づく書面が交付されたものとはいえない。
3争点1(3)(貸金業法18条書面交付の有無)について
(抗告人の主張)
抗告人は,北澤建設との取引開始後,毎月,甲第23号証の1ないし11,第24号証の1ないし8,第25号証の1ないし6(以上の書証番号は,いずれも異議審及び当審において提出された書証の番号である。
以下同じ。)に各記載された内容の取引明細を送付し,北澤建設が,各月5日までに,翌月5日までの利息を前払いして,弁済期の繰り延べをしてきた。
具体的には,平成10年2月5日から同年11月5日まではB型書面(甲第24号証),平成11年2月5日(欠缺部分はデータ破損により復刻できなかった。)から平成12年4月5日まではC型書面(甲第23号証),平成12年5月5日以降がD型書面(甲第25号証)であり,これらのダイレクトメールは,振込用紙に添付された形で前月下旬に北澤建設のもとに届くが,これにより,翌月5日までに支払うべき各貸付元本及びこれに対する利息の内容を了知することができる。
北澤建設は,振込用紙部分と上記ダイレクトメールとを合わせて見て利息であることを認識することができ,かかる認識のうえで支払をしたといえるので,実質的には貸金業法18条の要件を満たしている。
なお,上記ダイレクトメールは支払期日の前月下旬に北澤建設のもとに届くが,北澤建設はこれを見て充当関係を事前に了知することができるのであり,民法486条に規定する受取証書の同時履行と比べて北澤建設にとって有利になりこそすれ不利になることはないから,貸金業法18条の「直ちに」の要件を満たしているといえる。
(相手方の主張)
争う。
貸金業法18条に基づく書面についても,同法17条に基づく書面と同様その解釈は厳格になされなければならないというべく,同法18条に基づく書面は,1貸金業者において,本件のごとく銀行口座への振込送金によりなされた場合にあっても払込みを受けたことを確認した都度直ちに債務者に送付しなければならず,2同条の要求する記載事項も厳格に解釈する必要があり,かつ,3借用証書の記載と同法18条に基づく書面の記載とは合致している必要があると解される。
しかるに,本件においては,1抗告人のいう「B型書面」及び「C型書面」は返済日の10日以上前に事前に作成,送付された単なる請求書にすぎず,「D型書面」についても返済後1週間以上経過してから作成されたものであって,いずれも上記1の要件を満たさない。
2上記「B型書面」及び「C型書面」は同法18条1項2号の契約年月日の記載を欠き,また,同項4号の「受領金額及び利息損害金元金への充当額」も特定されて記載されていない。
「D型書面」は同法18条1項3号の契約金額の記載がない。
したがって,上記「B型書面」,「C型書面」及び「D型書面」はいずれも2の要件を満たさない。
3借用証書と上記「B型書面」,「C型書面」及び「D型書面」とはいずれも実質年率の記載が食い違っており,また,元金の支払方法と期日が食い違っているものもあり,上記3の要件を満たさない。
したがって,抗告人の主張する上記「B型書面」,「C型書面」及び「D型書面」はいずれも貸金業法18条に基づく書面ではない。
4争点2(抗告人北澤建設間の本件各貸付けは,貸口別に別途の契約であるか,全体として一個の契約であるか。)について
(抗告人の主張)
各貸口別の取引は,それぞれ独立した別個の取引であって,決済も貸口ごとに別々に行われている。
貸口を統合する場合には,それに対応する手順を踏んでいるのであるから,これが行われていない以上,自動的に元本が合算されるなどということはあり得ない。
また,根保証契約の締結は,元本合算の理由にはならない。
(相手方の主張)
争う。
抗告人が作成した「営業マニュアル初級編」によれば,抗告人による貸付けはリボルビング方式,すなわち決められた期間内に,債務者及び保証人に対し予め限度枠を取り決めてその枠の範囲内で反復,継続して貸付けと返済が繰り返されるというもので,全体として1口と評価,計算されるべきものである。
また,本件においては,利息の支払についてもいずれも毎月5日に1枚の請求書兼振込用紙で行われ,一体としてなされている。
したがって,本件における利息,元本の充当計算は全体として1本として行われるべきである。
5争点3(取引継続中に遅滞を生じた場合,遅延損害金が発生するか否か。)について
(抗告人の主張)
抗告人北澤建設間の取引は,毎月5日限り翌月5日までの利息を前払いすることによって翌月5日まで弁済期が繰り延べられる契約であるから,毎月5日までに支払がなければ遅滞となり,その後支払がなされた日までの分については利息ではなく遅延損害金が発生する。
従前抗告人がこの分の遅延損害金を請求してこなかったのは,コンピューターシステムの構築が困難であること,万一貸金業法所定の利率を超過してはいけないことなどから,債務者側に有利になるように取引を行ってきたものにすぎず,遡って北澤建設の遅滞を宥恕したり,弁済期を猶予する意思表示をしたものではない。
(相手方の主張)
争う。
6争点4(保全の必要性)について
(抗告人の主張)
本件仮処分命令の申立ては必要不可欠な債権保全の方法であり,債務者が転職してしまえば,本案判決を得てもその途が閉ざされてしまうのであるから,債権がある以上は保全の必要性がある。
(相手方の主張)
争う。
原決定は,抗告人の相手方に対する残債務元本が9万7482円あるとの判断をしているが,仮にその程度の金額の残債務があるとしても,抗告人はいつでも支払が可能であり,また,現在の勤務先には約20年勤務し,退職の予定も全くないので,本件については給与,賞与等の債権に対する保全の必要性は全く認められない。
第5当裁判所の判断
1疎明資料(甲第1,第3ないし第22号証,第23号証の1ないし11,第24号証の1ないし8,第25号証の1ないし6,第29ないし第31号証,第32号証の1,2,第33号証,乙第1ないし第3号証及び審尋の全趣旨)によれば,以下の各事実が一応認められるところ,これらの事実に基づき前記(本件)各争点について項目を改めて検討する。(1)抗告人は,本件継続取引契約に基づき,北澤建設に対し本件各貸付けをしたが,その際(平成12年1月5日の貸付けを除く。)北澤建設に対し「借用証書」と題する書面(甲第3ないし第10号証。
以下「借用証書」という。)を交付した。
借用証書には次の各記載がある。
ア債権者として抗告人の商号,住所及び抗告人の貸金業者としての登録番号,債務者として北澤建設の商号。
イ北澤建設が本件継続取引契約に基づき借用証書記載の金額を借り受け,同金員を受領した旨,借用証書を貸金業法17条の書面として受領した旨及び本件継続取引契約の契約番号。
ウ本件各貸付けの日,借用証書の発行日(いずれも本件各貸付けの日と同一である。)及び店番号。
エ債権の表示として取引区分,契約番号(ただし,平成10年1月12日の貸付け及び同年7月10日の貸付けでは記載がない。),元金支払方法(いずれも一括),最終弁済日(平成10年7月30日の貸付けを除いてはいずれも翌々月の5日。
平成10年7月30日の貸付けについては同年10月5日。),「手ー保」との表示,貸借金額(いずれも別紙貸付返済一覧表貸出金額欄記載の金額。),「担保別紙担保差入証のとおり」との記載,貸借年月日(いずれも貸付返済一覧表貸出日欄記載の年月日),利率(いずれも日歩8銭),実質年率,損害金(年40.004パーセントとの固定文字。),利息の支払方法(いずれも「先払一括,元金の支払期迄の利息を本日一括支払う」との記載)及び,「支払は持参若しくは貴社指定口座に振込とします。」との記載。
なお,実質年率は,平成9年2月18日の貸付けは年39.3パーセント,同年7月10日及び平成10年7月10日の各貸付けは年39.13パーセント,平成9年12月12日の貸付けは年39.19パーセント,平成10年1月12日,同年3月17日及び同年4月17日の各貸付けは年39.20パーセント,同年7月30日の貸付けは年39.05パーセントとされている。
オ本日現在総融資残高の記載。
カ「利息/割引料/諸費用計」として金額の記載。
キ貸付金利息及び御手渡金額の記載(平成9年2月18日から平成10年3月17日までの各貸付けのみ)。
ク債務者として北澤建設の商号,住所,代表者の記名押印。
(2)平成12年1月5日の貸付けは,平成9年12月12日の貸付けと平成10年7月30日の貸付けを統合するため準消費貸借契約の体裁をとったもので,元利金等の支払請求書の中で統合元の各貸付けの契約番号,当初の貸付金額,現残高,起算日及び支払期日,利率,利息,諸費用並びに実質年率の記載がある(甲第33号証)。
(3)抗告人作成の顧客台帳として,各貸付けごとに計算が行われた書面が提出されている(甲第14ないし第22号証)。
ただし,これらの書面では利息制限法の制限利率により利息等の引直し計算が行われており,かつ,プリントアウトされた計算書のような体裁であることから,これらの書面が本件継続取引契約の継続中に作成されたものとまでは認められない。
(4)抗告人が貸金業法18条の書面として主張するものは甲第23号証の1ないし11(以下「C型書面」という。),第24号証の1ないし8(以下「B型書面」という。)及び第25号証の1ないし6の各書面(以下「D型書面」という。)であり,その詳細は以下のとおりである。
アB型書面,C型書面及びD型書面は,平成9年12月12日,平成10年1月12日,同年4月17日,同年7月30日及び平成12年1月5日の各貸付けについてその一部又は全部について発行されており,その余の返済についてはかかる書面が発行されたと認めるに足りる資料は存しない。
すなわち,平成9年2月18日,同年7月10日,平成10年3月17日,同年7月10日の各貸付けの返済全部,平成9年12月12日の貸付けのうち平成10年5月20日,同年7月6日,同年9月30日,同年12月17日,平成11年1月20日,同年3月9日,同年4月12日及び同年5月11日の各返済,平成10年4月17日の貸付けのうち同年7月7日の返済,同年7月30日の貸付けのうち平成10年12月17日,平成11年1月20日,同年3月9日,同年4月12日及び同年5月11日の各返済,平成12年1月5日の貸付けのうち平成12年2月7日の返済については,かかる書面が発行されたと認めるに足りる資料は存しない(なお甲第11号証は甲第24号証の2と,甲第12号証は甲23号証の1と,甲第13号証は甲25号証の1と,それぞれ同一の書面であると認められる。)。
イB型書面,C型書面及びD型書面はいずれも次回支払期日における支払請求金額及びその充当予定を記載した書面であり,電信振込依頼書が添付されている。
D型書面には,「前回の取引のご報告」として前回の支払金額について利息及び手数料にいくら充当されたかを示す明細書が添付されているが,B型書面及びC型書面にはその記載がない。
また,D型書面はいつ北澤建設に送付された書面か明らかでないが,上記「前回の取引のご報告」の題名の横には前回の支払から2ないし12日後の日付が記載されている。
ウB型書面及びC型書面では,貸付日の記載がなく,また,元金,利息及び費用の合計額と内費用額については記載があるが,元金と利息の内訳が判然としない。他方,D型書面では,当初の貸付金額が不明である。
エ最終弁済期日の記載は,B型書面,C型書面及びD型書面のいずれについても,平成9年12月12日の貸付けが平成14年12月5日,平成10年1月12日の貸付けが同年3月5日,同年4月17日の貸付けが平成15年4月5日,同年7月30日及び平成12年1月5日の各貸付けが平成15年8月5日とされている。
オ実質年率の表示については,B型書面及びC型書面では38.4パーセント(ただし,平成9年12月12日の貸付けのうち平成10年11月25日の返済については年36.3パーセント,平成10年7月30日の貸付けのうち平成10年11月25日の返済については年36.3パーセント,平成11年2月8日の返済については年38.3パーセントとなっている。)とされ,D型書面では年38.483パーセント(ただし,平成12年6月8日の返済及び同年9月8日の返済については年38.469パーセントとなっている。)とされている。
(5)相手方は,抗告人から開示された顧客台帳(乙第1号証)に基づき作成したとする別紙相手方計算とほぼ同一内容の表(乙第2号証)によりその主張金額を算出する(同表中年月日欄の「平成10年10月25日」とあるのは,上記乙第1号証の記載にかんがみ同月26日の誤記であると認められる。)。
上記乙第1号証の顧客台帳では,貸付金及び返済金はすべて1つの系列で記載されており,各貸口ごとにいかなる計算をしたものか明らかでない。
(6)相手方は,平成9年12月12日,抗告人との間で本件根保証契約を締結しているところ,同契約書の承諾条項と題する部分などの固定文字は,北澤建設が抗告人と締結した本件継続取引契約の契約書における記載と同一である。
これによると,根保証の範囲は,契約締結日において主債務者(北澤建設)が既に負担している債務及び同日から5年間の根保証期間内に発生する債務とされている。
また,上記承諾条項中には,北澤建設及び連帯保証人(相手方)が債権者(抗告人)に対する約定に基づく元利金の支払を1回でも怠ったとき,若しくは北澤建設及び相手方の抗告人に対する債務の一部でも履行を遅滞したときは,抗告人からの通知,催告がなくとも当然に抗告人に対する債務につき期限の利益を失い,直ちに債務全額を即時弁済すること(第8条4号),遅延損害金は利息のいかんにかかわらず年40.004パーセントとすること(第3条3号)などの記載がある。
しかし,本件全疎明資料によっても,抗告人が相手方又は北澤建設に対し年40.004パーセントの遅延損害金を請求し,あるいは相手方又は北澤建設からこれを受領したとの事実は認められない。
2争点1(みなし弁済の成否)について
(1)争点1(1)(利息天引とみなし弁済の成否)について
上記一応認められる事実によれば,抗告人の北澤建設に対する本件各貸付けにおいては,いずれも貸付金額から利息制限法による制限利率を超過した利息を天引きし,支払期日に貸付金額全額を弁済することが合意されている。
貸金業法43条1項は利息制限法1条1項及び同法4条1項の特則とされており,利息の天引について規定する同法2条に対する特則とはされていないことが規定上明らかであり,利息が天引きされた場合には貸金業法43条1項の適用はなく,利息制限法2条が適用されるものと解される。
なぜなら,貸金業法43条1項の文言中に金銭の現実の交付を要する趣旨を看取することができるところ利息の天引はこれに当たらないし,上記一応認められる借用証書の記載にかんがみると利息天引が当該貸付けの条件とされているものというべきであり,利息を先払いするのでなければ実際上当該貸付けを受けられないのであるから,債務者が「任意に支払った」とはいえないからである。
これに対し,抗告人は,利息天引は貸付けに当たっての条件にすぎず,これにより支払の任意性が否定されることにはならないから,利息天引の場合にも同条項の適用があり,条文解釈としてもかかる解釈は可能であると主張するが,このような主張は上記検討したところと異なる独自の見解であって採用できない。
したがって,本件各貸付に際して天引きする方法による北澤建設による利息の支払については,貸金業法43条1項のみなし弁済の規定を適用することはできない。
なお,本件各貸付けのうち,実質的には単なる借り増しと認められる貸付け(後記3)については,利息を先取りした部分が当然にいわゆる利息天引となるわけではないが,上記一応認められる借用証書の記載にかんがみると,かかる場合も利息天引と同じく利息の先取りが当該貸付けの条件とされているというべきであり,利息を先払いするのでなければ実際上当該貸付けを受けられないのであるから,債務者が「任意に支払った」とはいえず,これらの返済についてもやはり貸金業法43条1項のみなし弁済の規定を適用することはできない。
そうすると,本件各貸付けを別個のものとみるか一体のものとみるかを問わず,各貸付けにおける初回の返済は,いずれも利息天引又は利息先取の方法により利息の支払がなされているから,いずれも貸金業法43条1項のみなし弁済の規定を適用することはできない。
なお,利息制限法の制限利率を超過した利息を天引した場合に,当該超過分をどのように元本に充当するかについて,相手方は,当該超過分が当然にすべて元本に充当されることを前提に別紙相手方計算記載のとおりの計算を行っている。
しかし,利息制限法2条は,天引した利息の額が受領額を元本として同法1条所定の利率により計算した金額を超えるときは,その超過部分は元本の支払に充てたものとみなす旨規定しているが,受領額が元本となるとまで規定するものではないから,上記相手方の計算によることはできず,上記の場合の残元本の金額は,受領額を元本として計算した利息制限法所定の利息額と天引額とを比較して天引額が制限利息額を超えるときは,この超過額を名目元本額の弁済に充当した残額であるというべきである。
(2)争点1(2)(貸金業法17条書面交付の有無)について
貸金業法17条1項は,貸金業者に対し,貸付けの際に返済期間,返済回数,各回の返済期日及び返済金額等の契約内容を記載した書面を債務者に交付するよう義務付け,これが同法43条1項のみなし弁済が認められるための要件とされているが,同法17条1項の趣旨は,契約内容が書面で明らかにされず,又は書面が作成されていてもこれが債務者に交付されていない場合には,後日当事者間に契約をめぐり紛争が生ずるおそれが大きいためであると解される。
ところで,債務者としては,残り何回でどれだけの金額を返済すれば最終的に自己の債務が消滅するのかを認識することによって返済計画を立てるのが通常であるから,上記返済期間,返済回数,各回の返済期日及び返済金額については正確な情報を受けなければ上記貸金業法17条1項の趣旨が没却される結果となる。
したがって,各貸付けに際して返済期間,返済回数,各回の返済期日及び返済金額等の契約内容を記載した書面が債務者に交付されていない場合はもちろんのこと,これが形式的には交付されていても,同書面に記載された返済方法と債権者による実際の請求及びこれに対する債務者による返済の方法とに食い違いがある場合には,かかる書面は貸金業法17条1項の要求を満たす書面とは認められないものといわなければならない。
これを本件についてみると,上記一応認められるとおり,まず平成12年1月5日の貸付けについては,返済期間,返済回数,各回の返済期日及び返済金額等が記載された書面の交付は認められない。
次に,抗告人は,平成9年2月18日から平成10年7月30日までの各貸付けに際しては北澤建設に対し「借用証書」と題する書面を交付しているが,同書面には,いずれも返済方法として元金一括,利息の支払方法先払い一括と記載されているところ,このうち平成9年12月12日,平成10年4月17日及び同年7月30日の各貸付けについては,別紙貸付返済一覧表記載のとおり元金の一括返済はなされておらず,これらの貸付けにかかる抗告人作成の請求書(甲第23号証の1ないし11,第24号証の1ないし8,第25号証の1ないし6)中にも,各貸付けにつき約3万円ないし約9万円の分割弁済と記載されているから,「借用証書」における返済期間,返済回数,各回の返済期日及び返済金額等の契約内容が実際とは大きく異なるものといわざるを得ない。
したがって,平成9年12月12日,平成10年4月17日及び同年7月30日の各貸付けについても,貸金業法17条1項の要求を満たす書面の交付は認められないことに帰する。
また,平成10年3月17日,同年7月10日の各貸付けについては,実際の返済期日が借用証書上の返済期日よりも前倒しになっており,かかる場合も,債務者としては借用証書を受領した時点で立てた返済計画の変更を余儀なくされるから,ひるがえって上記各貸付けにかかる借用証書は貸金業法17条1項の要求を満たす書面とは認められないことになる。
これに対し,平成9年2月18日,同年7月10日,平成10年1月12日の各貸付けについては,借用証書と抗告人による実際の請求とで,その返済期間,返済回数,各回の返済期日及び返済金額に食い違いは見られないが,これらはいずれも各貸付けに対する初回の返済であるところ,上記(1)にみたとおり,各貸付けに対する初回の返済はみなし弁済の対象とならないのであるから,その余の点を検討するまでもなく,北澤建設の本件貸付けに対する各返済については,いずれも貸金業法43条1項のみなし弁済の規定を適用することはできない。
(3)争点1(3)(貸金業法18条書面交付の有無)について
上記(1),(2)により,結局みなし弁済規定の適用が認められる返済は存しないことに帰するが,なお貸金業法18条書面交付について付言するに,上記一応認められるとおり,抗告人が北澤建設に対して交付したと主張するB型書面,C型書面及びD型書面はすべての返済につき発行されたものではない(なお,抗告人は欠損部分についてはコンピューターシステムのデータ破損により提出できないなどと主張するが,かかる事情からB型書面,C型書面又はD型書面の交付が擬制されることになるものではないから,発行されたことの疎明がない部分については発行されていないものといわざるを得ない。)うえ,発行されたB型書面及びC型書面には受領金額を利息,遅延損害金及び元本にどのように充当したかの記載(貸金業法18条1項4号)がなく,他方,D型書面には当初の貸付金額の記載(同条項3号)がないから,いずれも同条項の要求を満たす書面であるとはいえない。
3争点2(抗告人北澤建設間の本件各貸付けは,貸口別に別途の契約であるか,全体として一個の契約であるか。)について
金銭の支払がある債権について弁済の効力を持つためには,その支払が当該債権についてされる必要があると解されるが,少なくとも本件のように同じ基本契約に基づく貸金債権が数口ある場合に,そのうちある債務への弁済について利息制限法所定の制限利率を適用して計算すれば過払が生ずるときは,債務者が特段の意思を表示しない限り,民法489条,491条に基づいてその過払い金は他の別口の債権に充当されると解するのが相当である。
しかし,過払を生じた段階で別口の債権が存在しなければ充当の問題は発生しないと解すべきであり,新たな他の債権が発生した時点で過払い金が当然に新たな債権の元本に充当されると解することはできない。
これに対し抗告人は,本件各貸付けは,それぞれ独立した別個の取引であって,決裁も貸口ごとに別々に行われており,貸口を合算(統合)するときには対応する手続を踏んでいるのであるから,かかる手続を踏まない以上は合算することはできないと主張する。
しかし,上記一応認められるとおり,本件各貸付けはいずれも同じ基本契約(本件継続取引契約)に基づく同一の債権者及び債務者間の貸金債権であること(なお,抗告人は,貸金業法17条の要件につき主張するに当たっては,本件継続取引契約の契約書と各貸付けとの一体性を主張しており,この点だけを見ても基本契約との関連を度外視することはできない。),抗告人は貸口別の顧客台帳を証拠資料として本件手続に提出しているが,同顧客台帳では利息制限法の制限利率による引直し計算が行われており,他方,本件各貸付けがすべて合算して計算されている顧客台帳(乙第1号証)ではこのような記載がないことにかんがみると,上記貸口別の顧客台帳は抗告人と相手方との取引が終了した後に作成されたものである疑いがあり,抗告人相手方間の取引が継続している間は乙第1号証の顧客台帳が使用されていた可能性があること,抗告人が相手方に送付した振込用紙兼請求書,すなわちB型書面,C型書面及びD型書面のいずれにおいても貸口別の金額が内訳として記載されてはいるが,振込用紙は各貸付け分がすべて合算された金額を一括して振り込む形になっていることからすれば,同時に並行して貸付,返済が行われている各貸付けについて,冒頭に述べた一般論を覆すほどの独立性があるとは認められない。
よって,抗告人の主張は採用できない。
そこで,冒頭に述べたところに従って本件各貸付けを検討すると,平成9年2月18日及び同年7月10日の各貸付けに対する返済は,いずれも次の貸付けが行われる以前の時点で終了しているのに対し,平成9年12月12日の貸付け及び同日以降の各貸付けに対する返済は,いずれも次の貸付けが行われるまでに終了していない。
したがって,平成9年2月18日及び同年7月10日の各貸付けについては,過払が生じたときには別口の債権が存在せず充当の問題が生じない場合といえるが平成9年12月12日の貸付け及び同日以降の各貸付けについては,いずれも過払が生じた段階で当該過払い金は別口の債権に充当される場合に該当するといえるので,これらの各貸付けについては,いずれも実質的には従前の債務の借り増しに過ぎないものとして,合算して計算すべきである(ただし,利息天引とされた平成9年12月12日の貸付けについては,同貸付けにおいて定められた返済期日,すなわち平成10年2月5日までの利息が天引されたものとみるべきであり,平成10年1月12日の支払により同日以後の上記天引にかかる利息までが宥恕されたことになるものではない。)。
したがって,各貸付けに対して適用される制限利率は,平成9年2月18日及び同年7月10日の各貸付けについてはそれぞれ1個の貸付けとしてその残元金の金額を基準として定められるべきであるが,同年12月12日以降の各貸付けについては,これを一連の取引としてこれらの残元金を合計した金額(なお,合算当初に元本額が100万円以上であった場合には,後にこれが返済によって100万円に満たなくなった場合にも,なお従前の制限利率によることは利息制限法の解釈上当然である。)を基準として定められるべきである。
4争点3(取引継続中に遅滞を生じた場合,遅延損害金が発生するか否か。)について
抗告人は,抗告人北澤建設間の取引は,毎月5日限り翌月5日までの利息を前払いすることによって翌月5日まで弁済期が繰り延べられる契約であるから,毎月5日までに支払がなければ遅滞となり,その後支払がなされた日までの分については,利息ではなく遅延損害金が発生すると主張する。
確かに,上記一応認められるとおり,本件継続取引契約書の承諾条項中には,元利金の支払が一回でも期限に遅れると当然に期限の利益を喪失するとの記載があるが,他方,本件では別紙抗告人計算に記載のとおり,抗告人北澤建設間の取引が継続しているうちから北澤建設が支払期日に遅れて元利金の支払をしたものがほとんどであるのに,抗告人は遅延損害金を請求していない。
抗告人は,コンピューターシステムの構築が困難であることや,みなし弁済の要件を満たせば,利息の利率と損害賠償の利率とがそれほど異ならないことなどを理由に,遅延損害金の請求をしなかったのは期限の利益喪失を宥恕したものではないと主張するが,かかる事情が遅延損害金の請求をしなかったことの正当な理由となるとは認められないから,改めて抗告人から北澤建設に対し期限の利益を喪失させる旨の意思を表示しない限り遅延損害金は発生しないと解するのが相当である。
そして,本件ではかかる意思の表示は認められない。
したがって,本件各貸付けのうち,平成9年12月12日以後の貸付けにおいては,北澤建設からの返済が継続していた平成12年9月5日の返済期日までは相手方及び北澤建設に遅滞が生じず,その翌月の支払期日である同年10月5日の経過をもって遅滞が生じたものというべきである。
これに対し,平成9年2月18日及び同年7月10日の各貸付けについては,それぞれ独立した貸付けであるとみるべきであり,取引が継続していたとはいえないから,その各返済期日以後現実に返済がなされた日までは遅延損害金が発生すると解するのが相当である。
5まとめ
以上判断してきたところをもとに相手方の抗告人に対する残債務を計算すると(別紙相手方計算のうち,平成10年2月5日及び平成11年2月8日の各支払は別紙貸付返済一覧表及び別紙抗告人計算の各記載より少ない金額が記載されており,かつ,相手方が別紙相手方計算の記載の根拠として主張する乙第1号証の記載は別紙貸付返済一覧表及び別紙抗告人計算の各記載と一致しているので,これらの部分については,別紙抗告人計算の各記載部分を採用する。),別紙当裁判所計算表記載のとおりとなり,相手方が平成13年1月25日に返済した金額をもってもはや過払となっているから,抗告人の相手方に対する請求債権は存しない(被保全権利の不存在)というに帰する。
したがって,争点4(保全の必要性)を検討するまでもなく,本件仮処分命令の申立ては理由がない。
第6結論
以上のとおり,本件仮処分命令の申立ては請求債権(被保全権利)を欠き理由がないというべきところ,これと結論を同じくする原決定は正当であるから,本件抗告は理由がないというべくこれを棄却することとし,主文のとおり決定する。過払い金を取り戻すお手伝い「過払い金ドットコム」
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